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<報告>9/16 現代教養講座 田中俊之先生

 
「男性学の視点から 女性も男性も生きやすい社会について考える」
 
2017年9月16日、72年館で大正大学准教授の田中俊之先生にお話を伺いました。田中先生は以前東京女子大学でも教鞭をとられており、学生に大変人気があった先生です。今回同窓会でも「男性学」という一般には聞き慣れない立場からのお話を聞いてみたいと、この講座を開催しました。三連休初日にもかかわらず、一般参加者58名(うち男性2名、学生1名)と会場は一杯になりました。
 
「男性学」というのは1980年代後半に、働き過ぎ、過労死、自殺など様々な問題が表面化してきた時期に、「男性が男性であるがゆえに抱える悩みや葛藤を対象とした学問」として研究が進んできました。定義にある男性が抱える問題の数々(そしてそれは一緒に暮らす女性の問題でもあるのですが)を、様々な分野の文献やデータをご説明になりながら、随所にユーモアも折り込み、濃厚な講義をしていただきました。以下に男性の抱える問題を中心に要点をまとめました。
 
自殺:日本人の自殺死亡率に関しては、約34万人の死亡者のうち女性は男性の1/3でしかありません。その男性も中高年が多数を占めているという背景には、彼らが悩みを誰に話したらよいかわからないことがあります。友達もいないし、飲みながら悩みを話すこともできない。ましてや生活を男性に頼っている家族には話せない、となると救う事ができなくなってしまいます。
 
夫婦関係:伊藤公雄先生が「日本の男性は、夫婦であることに安住して、夫婦関係を築くことを忘れている」と言っていますが、まず男性にこれを認識してもらう必要があるかと思います。産後クライシス(出産後に急速に夫婦の愛情が冷え込む現象)において、子供が生まれると母親は9割方子供に係りきりになり、男性は自分を構ってくれないと言います。それは愛情というものには限界があり、当然のことだそうです。ですから現代のイクメン男性も子供にかかりきりとなることになり、男女は互いに愛情が薄れていくのです。父と母という役割をそれぞれ取得したのだ、と理解することが必要とのことです。また、熟年離婚では、結婚をロマンチックなものとしてではなく、人間関係を常に作っていくものとして理解しなければいけないと指摘なさいました。(伊藤公雄  「男女共同参画社会が問いかけるもの」2003年)
 
コミュニケーション:夫婦間で、また地域との関連で足りないコミュニケーションについては、コミュニケーションには、要件伝達型と関係形成型があり、要件伝達型とは、用件を伝えることを目的としたもので、男性に多くこれは手段的な行為となります。それに反して女性のコミュニケーションは、関係伝達型であり、相手との共感を目的としたもので、相手に聞き手になることが求められるのです。ですから女性の話を聞く時には、男性は「聴く力」が必要となります。
 
社会人:日本で使われる「社会人」という言葉は英語ではoffice workerとなり、これは単に会社員を指すだけです。しかし個人は、職業領域(収入を得る事を目的として社会分業に参加)、地域領域(互いの生活の豊かさを求めて合意を選択)、家庭領域(衣食住という日常生活を共有)、個人領域(社会的な役割から距離を置いたプライベートな領域)の4つのカテゴリーの中に生きています。男性はよく「俺が食わせている」と言いますが、これはお金を稼ぐことのみに価値があり、無収入になったら自分には価値がないということを自ら証明しているようなものです。しかし、この時に無収入になったら価値がないという反論をしてしまったらだめということです。なぜならそこでコミュニケーションは止まってしまうからです。コミュニケーションを続けるにはユーモアで返す必要があるとのことですが、これはなかなか難しそうです。
 
ワーク・ライフ・バランス:WLBの再考として、藤村正之先生の「LIFEには生命、生活、生涯という3つの意味がある」という提唱を使ってご説明がありました。WLBと関連させれば、1.仕事と「生命」のバランス(この生命を健康としてもいい)、2.仕事と「生活」のバランス、3.仕事と「生涯」のバランスの3つとなり、働くとは何か、男女平等とは何か?を考える指標となるのではないでしょうか。日本の社会では、「男性は働いていれば問題はない」、「女性は家事をやっていれば問題はない」とされてきましたが、現代はそれだけをやっているだけでは豊かな人生を送れないのです。
(藤村正之 「(生)の社会学」 東京大学出版会 2008年)
 
寛容:日本人の意識調査で、「結婚しなくてもよい。」と回答した人は63%(2013年)、「また子供を持たなくてもよい。」とした人は55%となっていますが、1993年では前者、後者とも60%近くが結婚するのが当然、子供を持つのが当然と回答していました。この20年間で、人々の意識は変化しています。が、この意識変化も哲学者のバーカーとザイデルフェルトの寛容の定義から吟味する必要があります。彼らは寛容を「積極的寛容」と「消極的寛容」に分け、積極的寛容とは「自分と異なる価値観を持つ個人や集団と出会ったときに純粋な敬意や開放性を持つこと」、消極的寛容とは無関心さを表現したものです。自分と異なった価値観と出会ったとき、それを拒否したり、否定するのではなく認めるという考えを育てていかなくてはなりません。人が長時間会話をすると、お互いに影響を与えますが、そうした「感染」が生じると、相手の信念や価値観をおかしいと思う事が困難になるのだそうです。ですからスマホだけのやりとりではなく、面と向かって話す対面型の話をすることが大切となってくるのです。(NHK 放送文化研究所 「現代日本人の意識構造」第8版  2015年、ピーター・バーカー&アントン・ザイデルフェルト 「偏見を超えて」 2012年)
 
結論:男性と女性の問題に限らず、色々な人々と価値観がある現代社会では、対面型のコミュニケーションを取り理解しあう事が必要という、これからのダイバーシティ社会に生きる上でも大切な結論を提示していただきました。
                                企画委員会

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