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吉野直子ハープリサイタルを聴いて

2011年02月28日

 舞台の中央に置かれたグランドハープは、優雅で堂々としていた。古代ギリシア神殿の柱を思わせる象牙色のしっかりした支柱は大人の背丈ほどもあろうか。支柱と平行に整然と張られた数十本の弦、それらを縁取っているかに見えるゆるい曲線のネック、どっしりとしたペダル部分―――全体としてすっきりした美しいデザインである。
 舞台の吉野さんは腰を下ろして静かに支柱を御自分の方にもたせかけるようにして楽器を支える。ホール中、一音も聞き逃すまいと静まりかえる。吉野さんの白い指先が弦に触れると繊細でのびやかな音色が流れ出る。そのふっくらとしたやわらかい音色がホール全体を優しく包み込んでいく。そして聴く人ひとりひとりの魂の奥底まで染みこんでいく。―――この楽器が古来人類を魅了してやまなかったのも無理からぬことである。

  少年ダヴィデは悪霊に悩まされていた王サウルのそばで、たて琴を奏でて王の魂に安らぎを与えた(サムエル記上16)。ギリシア神話のオルフェウスはアポロンから授かったたて琴を携えて亡き妻エウリュディケの後を追って冥界に下り、冥界の恐ろしげな住人達の魂を虜にしてしまったという。(もっとも古代のたて琴は厳密にいえば素朴で持ち運びの容易なリュラの一種であり、現代の演奏に耐えるハープが登場するのは18世紀以後の由である)

  あれからはや一ヶ月近くが過ぎたが、私は毎夜のようにCDで吉野さんのハープ「バッハ作品集」を聴いている。ジャケットのハープをバックにした吉野さんのお写真を眺めていると、今72年館にお出ましのおひな様を連想した(吉野さんごめんなさい)。ラウンジにお出ましのおひな様(内裏びな)は新渡戸先生にいただいたものの由で、面長で物静かなお顔立ちも渋いお召し物もさすがに上品である。毎年この時期には、72年館の各部屋でいかにも由緒ありげなおひな様方とお会いすることができる。72年館の人々の細やかな心遣いが感じられる。このおひな様方の由来をたどってみたいと思いながら、まだ実現しないでいる。

 <参考文献>
『カラー 図解音楽事典』(U.ミヒェルス編、日本語版監修・角倉一朗)(白水社、1989年)

一柳 やすか


ph_72_20110228_05.jpg新渡戸先生より寄贈

 

 

 

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