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受け継いでいく、ということ

2014年06月28日

 

 最近読んだ本『『青鞜』の冒険 女が集まって雑誌をつくるということ』(森まゆみ著、平凡社、2013年刊)に次の記述を見つけ、嬉しくなったので、少々長くなりますが引用します。(【  】内が引用文です。)

 

【平塚家から見渡すかぎりの茶畑のなかに見える古めかしい黒い門の隣家十二番地には、
誰が住んでいたのだろうか。
「この門の家が安井哲子先生の生家であり、安井先生がわたくしとおなじ誠之小学校卒業
の先輩であることを知ったのは、何年もあとのことでした」
安井てつは明治三年に、駒込曙町に広い邸を持つ下総古河藩主土井邸内で生まれている。
父親は安井津守といって土井家の槍術指南役であった。誠之小学校はもと福山藩(阿部家)
江戸藩邸にあった藩校誠之館を前身とする。明治八年開校で、東京でも長い歴史を持つ小
学校だ。安井てつはおそらく二回生であろう。
その後、東京女子師範(後の女子高等師範、現お茶の水女子大学)を出て、母校の訓導を
していた頃、二つ年下の樋口一葉に和歌や『源氏物語』を習いに行った。私立青海学校高
等科四級までしか修めていない一葉の実力を認めて、当時としては最高の教育を受けてい
た安井がこだわりもなく古典を習っていたというのが興味深い。一葉は安井を「常に口重
に世辞など数々なき人」とその誠実で不言実行の姿を写している。安井が岩手から送られ
てきたりんごをおすそ分けに持って来たこともあった。
安井は一葉の死の翌年、明治三十年にイギリスに留学、オックスフォード、ケンブリッジ
で教育学を学び、帰国後、海老名弾正によって受洗、女子高等師範の教授、またタイ王室
の女教師、バンコクのラーチニー女学院校長をへて、大正七年(一九一八)には東京女子
大学の創立に関わり、新渡戸稲造のあとをついで二代目学長となった。戦時中、学生の赤
化が目立ち、投獄される学生があっても安井は彼女たちを排除せず、監獄まで差し入れに
いったという。】

 

引用文中のカギカッコ内で、「安井哲子先生、誠之小学校の先輩」と述べているのは、平塚らいてうです。カギカッコ内の文章は平塚らいてうの自伝『元始、女性は太陽であった』から、森まゆみ氏が引用したものです。森氏は、らいてうの人物評の中で安井てつ先生に対するものは「尊敬がにじみ出ている感じ」と書いています。
 

樋口一葉の『水の上日記』を読んでみました。明治二十八年(1895)四月十八日の項に
【平田ぬしに文を出す。今日兄君来訪。来客は、馬場君及び野々宮、安井の二人也。及び
おかう様、西村の老婆。】  (【  】内は引用文)
と、あります。この日を初めとして、以後何度も安井先生の名が日記に登場します。
明治二十八年五月八日の項
【晴れ。あす木曜日なるに、中嶋の会さし合へば、野々宮、安井両君のけい古を今日の方
になす。安井君より、松嶋の硯を送られぬ。暮れてかへる。】
五月二十三日の項
【野々宮君けい古に来る。安井君は風邪のよしにて休みなり。】
六月六日の項
【午後より、野々宮、安井君、および木村きん子とて、高等師はんの同勤の人なるよし和
歌、および文章など学ばヽやとて来る。】
十月九日の項
【あらざりしほどに、安井てつ子、岩手よりもらひたるのなりとて、大いなる林檎もてき
にける。それも女子師はん校の方へ、田舎よりとゞきたるを直に我家にもて来しのよし。
常は口重に、世辞など数々なき人なれど、心にしみてうれしとおもふ事のあれば、かく取
わきての事などもすめり。可愛き人のこヽろよと、母も妹もひとしくいふ。】
などなど、です。
十月九日の林檎の話、日記の翌十日の項を見ると、安井先生は一葉宅に稽古に行っています。明日稽古に行くとわかっていたのに、立派な林檎が嬉しくて、安井先生はその日のうちに一葉宅に届けたのでしょう。岩手からという林檎は、かつて安井先生が赴任していらした岩手県師範学校附属小学校高等科の関係で、贈られたものだったのでしょうか。温かい交流の様子が目に見えるようです。

 

2014年度の同窓会定期総会が6月14日に、支部長会が翌15日に、無事に終了しました。
礼拝をなさった一柳やすか同窓会前会長は、感話「練りきよめられて・・・」で安井先生のシャムでの苦労を取り上げました。
小野祥子学長は、挨拶で安井先生の建学の精神についてお話しなさいました。
東京女子大学創立100周年を4年後に控え、私たちが受け継いでいくべきものの尊さを、しっかりと自覚したいものです。
                                                                                                                                                                                                          

同窓会副会長 高田倫子

 

参考文献  ・『『青鞜』の冒険 女が集まって雑誌をつくるということ』
           森まゆみ著、平凡社、2013年刊
        ・『安井先生って、どんなかた?』(同窓会会報52・53・54号特集より 
           会報11号より)  東京女子大学同窓会発行
        ・日本現代文学全集『樋口一葉集 附明治女流文学』  講談社
          (旧字体を新字体に改めました。)


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