ホーム > 行事・催し > <報告>11/2 後期キリスト教講座

<報告>11/2 後期キリスト教講座

「アメリカ大統領の宗教的役割を問うー分断が深まるアメリカ社会のなかで」

講師:棚村惠子

日時:11月2日(木)

 

長雨の10月が終わり、やっと秋らしい穏やかな天気となった11月2日、後期キリスト教講座を開催しました。72年館に、本学教授で大学宗教委員長である棚村惠子先生をお迎えし、「アメリカ大統領の宗教的役割を問う?分断が深まるアメリカ社会のなかで」と題して講義をいただきました。期せずして、数日後にトランプ大統領が初来日するというタイミングでもあり、38名の受講者は興味深く聴き入りました。

 

講義の冒頭に先生がCDで流して下さったのは、私達日本人も聴き慣れたスーサの「星条旗よ永遠なれ」でした。このマーチに象徴されるように、戦後日本がお手本としてきた自由と平等の国アメリカ、民主主義国家アメリカ、豊かで若い国アメリカ、アメリカンドリームの国、そのアメリカが分からなくなっている。それもアメリカ国民が選んだ大統領によってです。そんな戸惑い感から棚村先生の講義は始まりました。以下先生の講義の概要です。

 

           

アメリカに植民地を建設する目的で、大西洋を渡ったピューリタンの時代から、アメリカは「山の上にある町、city upon a hill 」というマタイ福音書5章14節にあるイメージとして自らを定義し、世界からもリーダーとして見られてきました。しかしトランプ大統領が政権を取り、アメリカファースト主義を掲げ、TPPやユネスコからの脱退などに見られるようにその風向きが変わりました。

 

一方、トランプ大統領は、国内ではメキシコとの国境に壁を作ることを約束し、南部の州での人種問題による暴力沙汰など、アメリカ社会の分断を思わせるような事件が起きていますが、これはもともとアメリカという移民からなる多人種国家が抱えてきた問題でありました。それはアメリカのスローガンの一つである ‘E Pluribus Unum’ というラテン語にも象徴されています。このスローガンはアメリカ紙幣に印刷されていますが「多数(many)

からの一(one)」を意味します。分断は今に始まったことではなく、いわばアメリカは、まだこのスローガンに向かって試行錯誤をしている途中ともいえるのです。

 

アメリカ人の宗教的特徴としては、「二階建て宗教、すなわち市民宗教と個人の宗教」が挙げられます。アメリカは憲法上ではキリスト教を国教としてはいませんが、70から80パーセントの国民が多くのキリスト教の教派に属しています。19世紀以後、宗教の自由競争さながら、各教派が活発な伝道活動を展開するとともに、広大な国土なのでテレビやケーブルを通して大衆にテレビ説教師(テレバンジェリスト)が献金を募りながら平安を約束し信者を獲得します。そのような多様な個人の宗教を二階とすると、一階にはその出身にかかわらずアメリカ人として国を信じ、国のために奉仕する愛国主義の「市民宗教」があります。それは国民を一つにします。

 

代々のアメリカの大統領は、この市民宗教の祭司・預言者・牧師として国民をまとめ、諌め、励まし、導くという役割を果たしてきました。特に大統領の就任演説をはじめとして「言葉」が注目されてきました。「神はどちらかのお抱えの神ではなく、ご自身のご計画をおもちだ。・・・すべての人に自愛を」(南北戦争後のリンカーン元大統領第2次就任演説)、「恐れなければならないのは恐れることそれ自体」(世界恐慌中のルーズベルト元大統領の演説)、「国があなたに何ができるかではなく、あなたが国に何ができるかを問え」(ケネディ元大統領の就任演説)、そして最近では、「新しい責任の時代」を訴えた前大統領オバマの就任演説などが国民を導いてきました。

 

しかるに「アメリカファースト、アメリカを再び偉大な国に God Bless America!」と訴えたトランプ大統領の就任演説の中には、歴代の大統領が述べてきた「山の上の国」としての世界に対する責任感や使命感は述べられていませんでした。またトランプ氏の個人的な宗教的信念も、多分に自己実現や世俗的成功を目指す楽天的前向き思考です。その信条は、宗教改革の伝統に立つプロテスタント・キリスト教とは教理的な相違があると思われます。アメリカはこれからどうなるのでしょうか。分断が深まるアメリカ社会のなかで、トランプ氏が多民族国家アメリカの大統領として、これからその宗教的役割をどう果たして行くのかが注目されます。

 

 

トランプ大統領の登場で、今までの大統領が果たしてきた宗教的役割の変化、アメリカのキリスト教の変容、アメリカに内在する問題が浮き彫りになり、ますますアメリカが分からなくなりつつあります。そんな戸惑いについてはすでに多くの本が書かれていますが、アメリカ大統領を、従来担ってきたその宗教的役割から解明しようとした今回のような試みは、あまり見られません。棚村先生は自身のご専門のアメリカ宗教史という分野から、このテーマを設定して下さり、私達に違う観点からアメリカ社会を見ることを示唆して下さいました。資料もたくさん用意して下さいました。トランプ大統領の初来日にあたり、本日講義いただいた内容を頭において、今後もその言動を見守りたいと思います。

 

                              企画委員会


 後期キリスト教講座棚村先生.jpg 後期キリスト教講座全体.jpg


▲ ページの先頭へ戻る